アレジオン(エピナスチン)ドライシロップ回収につきまして

3月15日アレジオン(エピナスチン)ドライシロップについてのニュースがありました。

アレルギー性の鼻炎などで子ども向けに処方される治療薬からがんの発症を誘発するリスクのある物質が許容の限度値を超えて検出されたとして、製造・販売する製薬会社の「日本べーリンガーインゲルハイム」と、ジェネリック大手3社が自主回収すると発表しました。
これまでに健康被害の情報は入っていないということです。

子ども向け治療薬にがん誘発リスクの物質検出 製薬会社が回収(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210315/k10012916861000.html

 子どもの薬からがんの発症を誘発するリスクのある物質が許容の限度値を超えて検出なんて書かれると、不安になる保護者もいると思います。

専門的なニュースソースでも確認してみます。

日本ベーリンガーインゲルハイム、沢井製薬、東和薬品、日医工の4社は3月15日、抗アレルギー薬・エピナスチン塩酸塩ドライシロップ製剤(先発品:アレジオンドライシロップ)について、使用期限内全ロットの自主回収(クラスⅡ)を開始した。日本ベーリンガーインゲルハイムが自主調査を行ったところ、ICH-M7に基づく許容限度値を超える「発がん性が不明の既知の変異原性物質」に分類される可能性のある分解物が確認されたため。自主回収に伴い、製品の新規出荷も停止する。現在のところ、供給再開の見通しは立っていないとしている。なお、アレジオン錠は許容限度以内であることから、回収の対象ではない。

アレジオンドライシロップを自主回収(クラスⅡ) 許容限度値超の変異原性物質を確認 日本BIなど4社(ミクスONLINE)
https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=70796

 NHKのニュースでは「がんの発症を誘発するリスクのある物質」ですが、専門サイトでは「発がん性が不明の既知の変異原性物質」ですね。イメージが違うと思った人もいるでしょう。

少し解説してみましょう。

アレジオンドライシロップってなんなの?

 抗アレルギー剤のドライシロップです。先発品の名前はアレジオンです。後発品(ジェネリック)は一般名のエピナスチンだったり、エルピナンなどがあります。
 錠剤のお薬では現在問題になっていません。

何が起きたの?

 NHKのニュースではよくわかりませんが、原薬エピナスチン塩酸塩の酸化物がある一定量以上検出されたようです。現在のところその名前までは公式発表は無いようですが、各製薬会社は物質名や量を報告すべきとは思います。

そんなに危険なの?

 今回、ICH-M7ガイドラインでクラス2に分類される可能性のある分解物が認められ、その許容限度値を超えているということです。それで、そのクラス2とはどんな意味があるのでしょう?

 ICH-M7とは、潜在的発がんリスクを低減するための医薬品中DNA反応性(変異原性)不純物の評価及び管理に適応される枠組みだそうです。

https://www.pmda.go.jp/int-activities/int-harmony/ich/0036.html

画像の説明
潜在的発がんリスクを低減するための医薬品中DNA 反応性(変異原性)
不純物の評価及び管理ガイドラインについて(p.8)

 ここでクラス2とは「発がん性が不明の既知の変異原性物質(細菌を用いる変異原性試験で陽性*であり、げっ歯類の発がん性データがない物質)」と書いてあります。NHKでは「がん誘発リスクの物質」と書いてありますが、そこまで踏み込んだものでは無いと思います。

そんなこと言っても、ちょっとでも基準値を超えたら危ないのではないの?

 一般的に農薬を始めとした化学物質は、非常に大きな安全域を設けていることが普通です。クラス2の「提案される管理措置」とは「許容限度値(適切なTTC)以下で管理する」と書いてあります。

 では具体的にはどのようなものでしょう。

変異原性不純物のTTC に基づく許容摂取量である1.5 μg/person/day は、リスクが無視できる程度(理論上の過剰発がんリスクは生涯曝露において10 万分の1 未満)とみなされており、一般的には多くの医薬品に対し、管理に用いる許容限度値を算出する既定値として使用できる。この方法は通常、長期投与(10 年超)を目的とした医薬品中の発がん性データが得られていない変異原性不純物に使用される(クラス2 及び3)。
(上記 p.8)

 もちろん基準値を超えてはいけませんが、基準値を少しでも超えた医薬品を飲んだら、すぐにがんのリスクが高まるというものではなさそうです(ただし基準値をどのくらい超えたかは、続報を待ちましょう)。

ではどうすればいいの?

 今すぐお薬をやめるのも一つの手ですが、今はスギ花粉がいっぱい飛んでいます。鼻水がいっぱい出てつらい思いをするお子さんもいるかも知れません。ゼロリスクを探求することは、かえってリスクを増大させるのです(ゼロリスク探求症候群)。

 幸いにもアレジオンドライシロップ以外にも、粉の抗ヒスタミン剤が処方可能です。気になる方は受診をお願いします。

おまけ

 安全域について、気になった方はこちらの本もどうぞ。

基準値のからくり 安全はこうして数字になった (ブルーバックス)
https://www.amazon.co.jp/dp/B00M98XGDO/