フルミストでシェディング(水平伝播)?
フルミストで「シェディング(水平伝播)」が起こるのか?
フルミストが日本で使われるようになって、今年で2年目になります。
ところが、一部ではこんな声を耳にします。
- 「フルミストを接種したら、2週間は乳児との接触を避けるように言われた」
- 「接種後は30分間、個室で待機するように言われた」
- 「接種後1〜2週間は登園を控えるように言われた(!)」
果たして、これらは本当に必要な対応なのでしょうか?
それとも、“シェディング”という誤情報と同じく、科学的根拠に乏しいものなのでしょうか?
日本の添付文書にはどう書かれているか
日本の添付文書には以下のような記載があります。
「本剤は弱毒生インフルエンザワクチンであり、飛沫又は接触によりワクチンウイルスの水平伝播の可能性があるため、ワクチン接種後1〜2週間は、重度の免疫不全者との密接な関係を可能な限り避けるなど、必要な措置を講じることを被接種者又はその保護者に説明すること。」
「治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること。本剤は水平伝播の可能性があるため、ワクチン接種後1〜2週間は乳児との接触を可能な限り控えること。」
(引用元:医薬品医療機器情報提供システム KEGG)
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00071428#par-15_1_2
(私見ですが日本で接種できる19歳未満で、授乳をしている人はそういないと思います)
……と書かれていると、確かに心配になるのも無理はありません。
しかし、同じフルミストを使っている海外(アメリカやカナダなど)では、こうした説明はされていません。
実際に「水平伝播」は起きるのか?
水平伝播(シェディング)の根拠として最も引用されるのは、フィンランドから報告された2006年の論文です。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16804427/
この研究では、
- 本物のフルミストを接種した群と、
- プラセボ(偽ワクチン)を投与した群
を比較しました。
結果として、98人のワクチン接種者のうち80%が一時的にワクチン株を排出していましたが、実際に他人へ感染(伝播)が確認されたのは、たった1例だけでした。
しかも、その1例は
- 遺伝子配列が製造株と完全一致し、
- 減弱性(attenuation)・寒冷適応性(cold adaptation)・温度感受性(temperature sensitivity)を維持し、
- 「先祖返り(強毒化)」は起きておらず、
- 本人も無症状だったのです。
つまり、「排出(ウイルスが鼻から検出される)」ことはあるけれど、「感染を起こして症状が出る」ような事例は確認されていません。
CDC(米国疾病対策センター)の見解
アメリカCDCは、次のように述べています。
保護環境を必要とする重度の免疫抑制者を介護または世話する者は、生ワクチン型インフルエンザワクチン(LAIV)を接種すべきではない。あるいは、LAIV を接種した場合には、接種後7日間はそのような免疫抑制者との接触を避けるべきである。これは、生弱化ワクチンウイルスが近接者に理論的に伝播するリスクがあるためである。
(出典:CDC Table 2 – LAIV Precautions)
https://www.cdc.gov/flu/professionals/acip/app/table2.htm?utm_source=chatgpt.com
ここでいう「保護環境」とは、無菌室(クリーンルーム)などの高度な感染対策下にある方を指します。たとえば造血幹細胞移植を受けた直後など、極めて限られた状況です。
日常生活で「シェディング」を心配する必要はあるか?
結論として、
- フルミスト接種後にウイルスを排出することは確かにあります。
- しかし、そのウイルスは病原性を失っており、人に症状を起こすことはほぼありません。
- 免疫不全のある方でも、「保護環境が必要なレベル」でなければ特別な制限は不要です。
したがって、家庭内で乳児や高齢者と接触すること、保育園や学校に通うことを制限する必要はありません。
また、授乳中の母親が19歳未満でフルミストを受けるケースは現実的にほとんどありません。
正しい知識で、誤解と偏見を防ぎましょう
「シェディング」という言葉は、ときに誤情報と結びつき、ワクチンを受けた人への偏見や不安を生むことがあります。
私たちは、科学的に確かめられたデータをもとに、必要な注意を払いつつも、過剰な心配をしないようにすることが大切です。
動画作りました
もう辛いので動画作りました。ヒントは「弱々(よわよわ)ウイルス」です。