新型コロナ対策は長期戦・持久戦

今回は今までとは少し違ったお話をします。新型コロナウイルスとの戦いは、長期戦・持久戦を強いられます。

少し込み入ったお話ですが、よろしかったらお付き合いください。

3月16日にインペリアル・カレッジ・ロンドンが新型コロナウイルスに関する論文を出しました。

Impact of non-pharmaceutical interventions (NPIs) to reduce COVID-19 mortality and healthcare demand(PDF)

 私は発表された2・3日後に論文を読んだのですが、とあるグラフに戦慄を覚えました。少し解説をします。

 この論文では、新型コロナウイルスについて、2つの戦略を挙げています。

抑制
Suppression:社会的に隔離をする( R0<1 にする)
緩和
Mitigation:抑制よりも穏やかな方法( R0をできるだけ1に近づける)

 ここで言うR0(アールノウト)は基本再生算数のことで、一人の感染者が何人感染させるか、の数です。 R0が大きいほど感染力が増しますし、1より小さい状態が続けば、その感染症は収束していきます。また、感染や(将来できるかもしれない)ワクチンにより免疫ができればR0が次第に小さくなっていきます(集団免疫)。死亡率が多すぎて感染する人が少なくなってもR0は理論上は小さくなります。

画像の説明

 上の図は緩和政策をとった場合の10万人あたり必要なICUベット数を経時ごとに追ったものです。何もしなければピーク時には270床程度になります。世田谷区の人口を100万人とすれば、ICUが2,700床必要です(どこにある?)。そして様々な緩和策を採るとピークは100以下まで下がります。しかし、イギリスのICUの容量は最大でも8床弱なので遠く及びません(注意:日本はICUのベット数にもっと余裕があると思われます)。

 それでは抑制をすればいいかと言うと、抑制が続けば経済が成り立たなくなります。また、集団免疫が成立していないので、ウイルスが残っていれば再び大流行を起こしてしまいます。

画像の説明

 そこで考えられたのが間欠的抑制です。一旦抑制してICUが空いてきたら緩和、感染者が増えたら抑制を繰り返し、最終的には集団免疫を目指すものです。グラフの横軸を見ればわかるように来年の11月を過ぎても続くことが予想されます。

 この論文をもとに、イギリスがどのような「方針転換」をしたのかは、ICLの小野先生が解説しています。よろしかったら、御覧ください。

英政府の対コロナウイルス戦争の集団免疫路線から社会封鎖への「方針転換」と隠れた戦略

 R0について、もう少し数式を用いて解説したサイトがこちらです。

この感染は拡大か収束か:再生産数 R の物理的意味と決定~単純なモデル方程式に基づく行動変容の判断のために~

 数理的なことは正直私にもわかりにくところはあるのですが、肝だけ引用させてください。

7. 実効再生産数 R < 1 を目指すために

<施策・行動変容の考え方>

1) 密集を避け、感染可能初期人口Nを減らして感染レート(率)Nβを減らす。

2) 濃厚接触をさけ、換気・消毒などの環境整備で感染確率βを小さくする。

3) ワクチン、手洗いなど施策や予防により、感染確率βをβ(1-c) に落とす。(効果率0 < c < 1)

4) 治療法を確立し、快復確率γを増大する(時定数を短くする)。

5) 集団免疫をつけ、 N → χN (免疫非獲得率χ = S/N を下げる ) とする。

ただし、感染者ピークを下げれば下げるほど、長期戦になる。

 個人的には、感染をクラスター感染(小規模な集団感染)にとどめてオーバーシュート(爆発的患者急増)を防いでいる間(ピークをできるだけ低く先延ばしにしている)、有効なワクチンや治療法を開発するのが、現状では好ましいのでは、と思います。

 繰り返しますが、この戦いは長期戦・持久戦になります。つらい時期ですが、互いに協力していかなくてはいけません。

 経済が成り立たなくなり路頭に迷う人たちが、今も確実に増えてきます。政府に関しては手厚い支援を希望します。

 またストレスが溜まりやすくなり、家庭内のDVや虐待も増えるかもしれません。セーフティーネットとして働いていた学校の機能が途絶えれば、困窮する子どもたちも出てくることでしょう。

 この数週間どうなるか、私には予測が付きません。しかし、これだけは言えます。この危機を皆さんの叡智で乗り切っていきましょう。