ARFID(回避・制限性食物摂取症)とは?子どもの偏食との違い・受診の目安・家庭での対応
ARFID(回避・制限性食物摂取症)とは?子どもの偏食との違い・受診の目安・家庭での対応
「食べられるものが、いつも同じものばかり」
「食事に興味がなく、少し食べると終わってしまう」
「一度吐いてから、食べることを怖がるようになった」
こうした食事の困りごとの背景に、ARFID(回避・制限性食物摂取症)がある場合があります。
最近、当院でもARFIDが疑われるお子さんの相談が増えていると感じています。他の地域の医師からも、同様の声を聞きます(ただし、これは診療現場での実感であり、日本全体で発症が増えていると断定できるものではありません)。
大切なのは、食べられない状態を「わがまま」「しつけの問題」で片づけず、子どもが何に困っているのかを理解することです。

まず知っていただきたいこと
ARFIDは、食べる量や種類の制限によって、成長・栄養・日常生活に大きな支障が生じる摂食症です。
体重が標準範囲でも、栄養の不足や生活上の困りごとが隠れている場合があります。
まずは食べられるもので必要な栄養を確保し、食べづらさに合わせて段階的に支援します。
無理強いは避けますが、食べられない状態をそのままにしてよいわけではありません。
ARFIDとはどのような病気ですか?
ARFIDは、英語の「Avoidant/Restrictive Food Intake Disorder」の略で、日本語では「回避・制限性食物摂取症」といいます。
食べる量や種類が制限され、その結果として、体重減少や成長の停滞、栄養不足、栄養剤などへの依存、または日常生活への大きな支障が生じる状態です。
神経性やせ症と異なり、「やせたい」「太りたくない」という体重や体型への思いが、食事を制限する中心的な理由ではありません。
食べたくても怖くて食べられない、特定の食感を強く苦痛に感じる、食事への関心が乏しく必要な量を食べられないなど、背景はさまざまです。男の子にも女の子にもみられます。[1][2]
なぜ食べられないのでしょうか?
ARFIDでみられる食べづらさには、主に次の3つの背景があります。複数が重なることもあります。
主な背景 | お子さんの様子の例 |
|---|---|
食事への関心が乏しい | 食べることに興味が薄い、空腹を感じにくい、少量で食事を終えてしまう |
感覚的に受け入れにくい | 特定の食感、におい、味、見た目が強く苦手で、食べられる食品が限られる |
食べた後のことが怖い | 吐いたり、のどに詰まったりすることを恐れて、食べ物や食事を避ける |
例えば、同じ「肉を食べない」という行動でも、かむときの感覚が苦手なのか、のどに詰まることが怖いのかによって、必要な支援は変わります。
まずは「どうして食べないの?」と責めるのではなく、「どんなところがつらいのかな」と、本人の困りごとを確かめることから始めます。[2][4]
普通の偏食とARFIDは、何が違いますか?
違いを考えるうえで重要なのは、食べられる食品の数だけでなく、成長・栄養・生活への影響です。
幼い子どもには、苦手な食べ物があったり、新しい食べ物を警戒したりすることがあります。それだけでARFIDとはいえません。
一方、次のような影響がある場合は、医療機関への相談が必要です。
体重が減っている、または成長に伴う体重増加がみられない。
食べられる食品が限られ、必要な栄養素が不足している。
必要な栄養をとるため、栄養剤などに大きく頼る状態が続いている。
食事への不安が強く、給食、外食、宿泊行事などに大きな支障が出ている。
「○品目以下ならARFID」という単純な線引きでは診断できません。 また、栄養補助食品を使っていることだけでARFIDになるわけでもありません。
体重が標準範囲でも、食事内容によっては鉄やビタミンなどが不足することがあります。「やせていないから大丈夫」とは限らないのです。[1][2][5]
どのようなときに受診すればよいですか?
体重が大きく減るまで、待つ必要はありません。
食べられるものが減っている、食事のたびに強く怖がる、成長や学校生活への影響が気になるときは、まず小児科に相談してください。
受診の目安 | 症状・状況の例 |
|---|---|
早めに小児科へ相談 | 体重が減る、体重が増えない、食べられる食品が減り続ける、食事や給食への強い不安がある |
当日中に医療機関へ相談・受診 | 水分が十分とれない、尿が明らかに少ない、急にほとんど食べられなくなった |
救急受診 | 意識がおかしい、反応が鈍い、倒れるなど、明らかに全身状態が悪い |
特に、吐いたり、のどに詰まったりした経験をきっかけに、急に食べられなくなることがあります。脱水や低血糖が生じ、入院が必要になる場合もあります。
このようなときは、家庭で食べる練習を続けて様子を見るのではなく、身体の状態を確認することを優先します。[4]
小児科では、どのようなことを確認しますか?
最初から「心の問題」と決めつけず、身体と栄養の状態を確認します。
診察では、身長・体重の変化、食べる量や種類、食べられなくなった経緯などを伺います。腹痛や飲み込みづらさなど、食べにくくなる身体的な原因がないかも確認します。
必要に応じて検査を行い、栄養不足の有無を評価します。不安や感覚の特性、発達の状況なども、支援方法を考える手がかりになります。
受診時には、次のようなものがあると参考になります。
母子手帳や学校の健診記録など、身長・体重の経過がわかるもの
数日分の食事や飲み物の簡単なメモ
食べられるもの、苦手なものの一覧
症状が始まった時期や、きっかけとなった出来事の記録
記録を完璧にそろえる必要はありません。わかる範囲で教えてください。
家庭では、まず何をすればよいですか?
最初に、現在食べられるもので栄養を確保します
食べる量が不足しているときに、最初から「好き嫌いをなくす」「栄養バランスを完璧にする」ことを目指すと、かえって食べられる量が減ってしまうことがあります。
まずは本人が食べやすいものを使い、成長に必要な栄養を確保することが大切です。
そのうえで、不足しやすい栄養素を確認し、必要に応じて医師や管理栄養士と補い方を相談します。食事だけでは足りない場合、栄養剤などを使うこともあります。
食べられるものを活用することは、治療の出発点です。栄養と身体の状態を確認しながら、次の目標を決めていきます。[3][4]
無理強いせず、必要な支援を続けます
叱る、脅す、無理に口に入れるといった対応は避けます。「これを食べるまで他のものは出さない」と、現在食べられる食品を取り上げることも勧められません。
一方で、無理強いしないことは、食べられない状態を放置することではありません。
食事のリズムを整え、食べやすい環境を用意し、本人に合った取り組みを続けます。摂取量が少ない子どもでは、補食も栄養を確保する大切な機会になるため、おやつを一律に減らすのではなく、全体の摂取状況に合わせて考えます。
保護者だけで判断するのが難しいときは、医療者と一緒に方法を整理しましょう。
食べられるものは、どうやって増やしますか?
今できることを出発点にして、小さな段階で進めます。
獨協医科大学埼玉医療センター子どものこころ診療センターが作成した「ARFIDのためステップ表」では、食べ物や飲み物を次のように整理します。[4]
ステップ | 食べ物・飲み物の整理 |
|---|---|
1 | 今、比較的安心して食べたり飲んだりできるもの |
2 | 最初に試せそうなもの |
3 | ステップ2のあとに試したいもの |
4 | 少し心配だが、ステップ3のあとに試したいもの |
5 | 今回の治療では目標にしないもの |
ステップ5は、最後に必ず克服しなければならない食品ではありません。 「今は取り組まないもの」を決めることも大切です。
取り組みでは、飲み込めたかどうかだけで評価しません。スプーンを持てた、においを確かめられた、少し口に入れられたなど、小さな行動も前進として認めます。
同じ食品でも、やわらかさや大きさ、調理法を変えることで取り組みやすくなる場合があります。
ただし、量や頻度、進め方は一人ひとり異なります。主治医や心理職と相談し、本人の不安や身体の状態に合わせて進めてください。飲み込みづらさや食物アレルギーなどが疑われる食品は、家庭で無理に試さず、先に医師へ相談しましょう。
治療では、家族はどのような役割を担いますか?
家族は、医療者と協力して子どもの食事を支える大切な存在です。
ARFIDの治療では、食べづらさの背景に合わせて目標を考えます。
食事への関心が乏しい場合は、必要な摂取量や成長を確保する。
感覚的な苦手さが強い場合は、食べられる食品の幅を少しずつ広げる。
食べることへの恐怖が強い場合は、不安を和らげながら食事に取り組む。
家族が治療に参加する「家族をベースとする治療(FBT)」を、ARFIDに合わせて応用する方法もあります。ただし、すべての子どもに同じ方法が合うわけではありません。[5]
家族が関わるのは、「親に原因があるから」ではありません。また、治療の責任を家族だけで背負う必要もありません。状況に応じて、医師、管理栄養士、心理職などが協力して支えます。
園や学校には、どのように相談すればよいですか?
食べられない理由と、必要な配慮を具体的に共有しましょう。
例えば、次のようなことを相談します。
完食を強制しない。
食べる量や好き嫌いについて、人前で責めない。
食べられる食品や量、食事環境を調整する。
給食や宿泊行事への対応を、事前に相談する。
どのような配慮が必要かは、お子さんによって異なります。家庭・園や学校・医療者で情報を共有し、栄養を確保しながら参加しやすい方法を考えます。
ARFIDについて、よくある質問
親の育て方が原因ですか?
親の育て方だけで説明できるものではありません。感覚の特性、食事への関心、不安や怖い経験など、さまざまな要因が関係します。誰かの責任を探すことより、今の食べづらさと栄養の問題に対応することが大切です。
体重が普通なら、心配しなくてもよいですか?
体重だけでは判断できません。食事内容によっては特定の栄養素が不足している場合があります。また、食事への強い不安や、学校生活への大きな支障も相談する理由になります。
発達障害のある子どもだけに起こりますか?
いいえ。自閉スペクトラム症やADHDなどを併せ持つ場合もありますが、ARFIDと発達障害は同じものではありません。発達障害がある子どもの偏食が、すべてARFIDというわけでもありません。[2]
大きくなれば自然に治りますか?
成長とともに食べ方が変わる子どももいますが、栄養不足や成長への影響がある場合は、自然な改善を待つだけでは不十分です。困りごとに合った支援を受けることが大切です。
何科に相談すればよいですか?
まずは、かかりつけの小児科に相談してください。身体と栄養の状態を確認し、必要に応じて、小児の摂食症を診療する専門医療機関などにつなぎます。
食べることの困りごとを、ご相談ください
ARFIDの治療で目指すのは、必要な栄養をとって成長できること、食べる不安や苦痛が減ること、日常生活でできることが増えることです。
「何でも食べられるようになる」ことを、全員共通のゴールにする必要はありません。
かるがもクリニックでは、食べる量や種類、体重の増え方などについてのご相談をお受けしています。お子さんの身体と食事の状況を確認し、必要に応じて専門医療機関と連携して支援を考えます。
「偏食だから仕方がない」「自分の接し方が悪かった」と抱え込まず、気になることがあればご相談ください。
参考資料
国立精神・神経医療研究センター 摂食障害全国支援センター:
英国王立精神科医学会:
英国栄養士会:
Children and Young people with Avoidant Restrictive Food Intake Disorder(ARFID)
獨協医科大学埼玉医療センター 子どものこころ診療センター:『回避・制限性食物摂取症(ARFID)とは/ARFIDのためのステップ表』ver.2.0a。
厚生労働科学研究費補助金研究班:『はじめてのFBT実践ガイド―神経性やせ症に対する家族をベースとする治療』「小児・思春期の回避・制限性食物摂取症に対するFBT」、48–49頁。
執筆者
宮原 篤|かるがもクリニック院長・小児科医
東京都世田谷区で、子どもの病気、予防接種、成長・発達、食事などの相談に対応しています。医学的な根拠と日々の診療経験をもとに、保護者の方にわかりやすい情報をお届けします。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。対応は、お子さんの身体の状態や食べづらさの背景に応じて異なります。
コラム一覧

