子どもが夜眠れず、朝起きられない――睡眠・覚醒相後退障害(DSWPD)かもしれません
子どもが夜眠れず、朝起きられない――睡眠・覚醒相後退障害(DSWPD)かもしれません
子どもが夜眠れず朝起きられない原因として、睡眠・覚醒相後退障害(DSWPD)があります。起立性調節障害との違い、生活改善、メラトベル、低用量アリピプラゾールの位置づけを小児科医が解説します。
夜になっても眠れない」
「朝は何度起こしても起きられない」
「遅刻や欠席が増えてきた」
このような状態は、単なる夜更かしや本人の怠けとは限りません。体内時計が後ろへずれる睡眠・覚醒相後退障害(DSWPD)という病気が隠れていることがあります。
以前は「睡眠相後退症候群(DSPS)」とも呼ばれていました。
治療では、夜のスマートフォンを控えるだけでなく、朝の光、起床時刻、昼寝、休日の過ごし方などを一緒に整えます。それでも改善しない場合は、メラトニンなどの薬を使うことがあります。

この記事の要点
DSWPDは、体内時計が後ろへずれ、夜眠れず朝起きられなくなる病気です
本人の意思の弱さだけで起こるものではありません
起立性調節障害(OD)と似ていますが、同じ病気ではありません
ODとDSWPDが同時に存在することもあります
治療の基本は、朝の光と規則的な生活です
必要に応じてメラトニンなどの薬を使用します
薬を使う場合も、生活リズムの調整は欠かせません
睡眠・覚醒相後退障害とは、どのような病気ですか?
睡眠・覚醒相後退障害とは、睡眠と覚醒の時刻が、学校や社会生活で求められる時間より大幅に遅れてしまう病気です。
主に次のような症状がみられます。
早く寝ようとしても眠れない
深夜から明け方になって、ようやく眠くなる
朝は目覚まし時計や家族の声かけでも起きられない
無理に起きると頭痛、吐き気、強いだるさがある
遅刻や欠席が増える
休日は昼近くまで眠る
遅寝遅起きが許されれば、比較的よく眠れる
一般的な不眠症では、好きな時間に寝ても眠りが浅かったり、途中で何度も目が覚めたりします。
一方、DSWPDでは、本人の体内時計に合った遅い時間帯なら、比較的まとまって眠れることが特徴です。
DSWPDは思春期から若年成人に多く、長期休暇の後などに目立ちやすいことが知られています。国立精神・神経医療研究センター
朝起きられないのは、本人の怠けなのでしょうか?
DSWPDは、本人の努力だけでは解決できないことがあります。
「早く寝なさい」と言われて布団に入っても、体内時計がまだ昼間だと判断していれば眠気は起こりません。朝になっても、体内時計にとってはまだ睡眠時間なので、簡単には起きられません。
もちろん、夜のスマートフォンやゲームが睡眠リズムを悪化させることはあります。しかし、スマートフォンだけが原因とは限りません。
DSWPDには、次のような要因が関係します。
思春期に伴う体内時計の変化
もともとの夜型傾向
夜間の照明やスマートフォン
朝の光を浴びる機会の不足
長い昼寝
休日の遅起き
不登校などによる生活時間の変化
ADHDやASDなどの神経発達症
不安、抑うつ、学校でのストレス
子どもを一方的に叱るのではなく、睡眠時刻がどのようにずれているのかを確認することが大切です。
起立性調節障害(OD)とは何が違いますか?
起立性調節障害とDSWPDは、どちらも「朝起きられない」という症状を起こします。
起立性調節障害(OD) | DSWPD | |
|---|---|---|
主な問題 | 起立時の血圧や循環調節 | 体内時計と睡眠時刻のずれ |
主な症状 | 立ちくらみ、動悸、頭痛、倦怠感 | 夜眠れない、朝起きられない |
遅く起きた場合 | 体調不良が残ることがある | 比較的すっきり起きられることがある |
両者の関係 | DSWPDを併存することがある | ODを併存することがある |
全てではありませんが以前ODと診断されたお子さんの一部に、実はDSWPDだったということはあるかと思います。
ODとして治療しても朝の起床困難が改善しない場合や、夜の入眠時刻が非常に遅い場合には、睡眠リズムの評価も必要です。
DSWPDが疑われるとき、何を調べますか?
まずは睡眠のチェックをつけてみます。
記録する項目は次のとおりです。
布団に入った時刻
実際に眠ったと思われる時刻
夜中に目が覚めた回数
朝目が覚めた時刻
布団から出た時刻
昼寝の時刻と長さ
スマートフォンやゲームを終えた時刻
カフェインを摂取した時刻
遅刻や欠席の有無
頭痛、立ちくらみ、気分の落ち込み
平日と休日で、入眠・起床時刻がどの程度違うかも重要です。
必要に応じて、起立性調節障害、睡眠不足、睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群、うつ病、神経発達症などが隠れていないかも確認します。
家庭でできる治療はありますか?
DSWPD治療の基本は、体内時計を少しずつ前へ動かすことです。
朝に行うこと
毎日なるべく同じ時刻に起きる
起きたらすぐにカーテンを開ける
可能であれば外に出て朝の光を浴びる
朝食をとる
日中に適度な運動をする
夜に行うこと
夜は部屋の照明を少し暗くする
就寝前のスマートフォンやゲームを控える
夕方以降はカフェインを避ける
長い昼寝や夕方の昼寝を避ける
休日も昼まで寝続けない
「今夜から3時間早く寝る」という方法は、通常うまくいきません。
寝る時刻だけを無理に早めるのではなく、朝の起床時刻と光の浴び方から少しずつ調整することが重要です。
生活を整えても眠れない場合、薬を使いますか?
睡眠衛生を改善しても夜眠れず、学校生活などに大きな支障が出ている場合には、薬物療法を検討することがあります。
ただし、薬だけで生活リズムを治すことはできません。薬は、体内時計を整える取り組みを助けるために使用します。
また、DSWPDの薬物療法では、薬の種類や量だけでなく、何時に服用するかが重要です。自己判断で服用時刻や量を変更しないでください。
メラトベルは一般的な睡眠薬とは違うのですか?
メラトベルの成分であるメラトニンは、もともと人の体内で作られているホルモンです。
暗くなると分泌が増え、体に「夜になった」と伝えます。そのため、メラトベルは脳を強く鎮静する一般的な睡眠薬とは作用が異なります。
主な特徴は次のとおりです。
自然な眠気を起こす方向に働く
睡眠と覚醒のリズムを整える
一般的な睡眠薬に比べ、依存や耐性を生じる可能性が低い
翌朝の眠気、頭痛、だるさなどが出ることはある
服用する時刻が治療効果に影響する
国内におけるメラトベルの承認適応は、小児期の神経発達症に伴う入眠困難です。PMDA・メラトベル添付文書
「子ども用だから自由に使ってよい」という薬ではありません。診断、服用時刻、効果、副作用を確認しながら使用します。
朝起きられない場合に、低用量のアリピプラゾールを使うことがありますか?
アリピプラゾールは、エビリファイという商品名で、主に精神科領域で使用される薬です。
一方、睡眠・覚醒リズムの治療では、通常の精神科治療よりも大幅に少ない量を使用することで、一部の患者に次のような変化が報告されています。
睡眠時刻が前に移動する
朝の起床時刻が早くなる
長すぎる睡眠時間が短くなる
アリピプラゾールはDSWPDに対しては適応外治療です。当院では、生活調整や他の治療だけでは改善せず、朝の起床困難が強い場合など、対象を慎重に選んで検討します。
少量であっても、次のような副作用が起こる可能性があります。
眠気
落ち着かなさ、そわそわする感じ
頭痛
吐き気
食欲や体重の変化
手足の震えや体の動かしにくさ
「量が少ないから絶対に安全」という意味ではありません。効果と副作用を確認しながら慎重に使用します。
薬を飲めば、生活習慣は変えなくてもよいですか?
薬を使う場合も、生活習慣の調整は必要です。
薬を飲んでいても、
深夜までスマートフォンを見る
朝の光を浴びない
休日は昼まで眠る
夕方に長く昼寝をする
という生活が続けば、体内時計は再び後ろへずれてしまいます。
薬は、無理やり眠らせるためのものではありません。生活リズムを整える作業を助ける道具として使います。
どのような場合に受診した方がよいですか?
次のような場合は、一度ご相談ください。
夜眠れず、朝起きられない状態が続いている
遅刻や欠席が増えている
休日になると睡眠時刻が大幅に遅くなる
ODの治療を受けても朝の状態が改善しない
本人は早く寝たいのに、どうしても眠れない
気分の落ち込みや不安が強い
昼間も突然眠り込んでしまう
大きないびきや睡眠中の無呼吸がある
睡眠の問題によって学校へ行けなくなった場合、睡眠を整えることと登校を急がせることは、必ずしも同じではありません。本人の状態を確認しながら、家庭、学校、医療機関で対応を相談します。
よくある質問
Q.休日は昼まで寝ています。DSWPDでしょうか?
休日の遅起きだけでは診断できません。ただし、平日と休日で睡眠時刻が大きく違い、夜眠れない、朝起きられない状態が続いている場合は、睡眠リズムを確認する価値があります。
Q.スマートフォンを取り上げれば治りますか?
夜のスマートフォンは症状を悪化させる要因ですが、それだけが原因とは限りません。使用時間を見直すとともに、朝の光、起床時刻、昼寝、休日の過ごし方も整える必要があります。
Q.ODとDSWPDは同時に起こりますか?
あります。立ちくらみや動悸などのOD症状と、夜眠れない・朝起きられないという睡眠リズムの問題が重なることがあります。
Q.メラトベルには習慣性がありますか?
一般的な睡眠薬に比べ、依存や耐性を生じる可能性は低いと考えられています。ただし、副作用や相互作用はあるため、医師の指示に従って使用します。
Q.エビリファイは精神科の薬なので心配です。
DSWPDに使用する場合は、精神科領域の通常量よりも大幅に少ない量が検討されます。ただし適応外治療であり、少量でも副作用は起こり得ます。すべての子どもに使用する薬ではありません。
まとめ
子どもが夜眠れず、朝起きられないとき、本人の意思の弱さだけを原因にしてはいけません。
睡眠・覚醒相後退障害では、体内時計が後ろへずれているため、本人が早く寝ようとしても眠れず、朝も簡単には起きられません。
治療の基本は、朝の光、一定の起床時刻、夜の照明やスマートフォン、昼寝、休日の過ごし方を見直すことです。必要に応じてメラトニンなどを使用しますが、薬だけで生活リズムが整うわけではありません。
「朝起きなさい」と繰り返すだけでは解決しないことがあります。
夜眠れず、朝起きられない状態が続いているときは、本人を責める前に、睡眠と体内時計の問題を一緒に考えてみましょう。
この記事を書いた医師
宮原 篤
かるがもクリニック院長/小児科医
2011年から世田谷区・千歳船橋で小児科診療を行っています。一般小児科のほか、予防接種、乳幼児健診、アレルギー、子どもの発達など、日常のさまざまな相談に対応しています。
学会・医会では、予防接種や公衆衛生に関する活動に携わり、保護者向け・医療者向けの書籍や記事も執筆しています。診療で実際によく受ける質問をもとに、保護者の方が判断しやすい、正確で実用的な医療情報を発信しています。
主な所属・役職
VPDの会 理事
東京都医師会予防接種・感染症委員会 副委員長
日本小児科医会 公衆衛生委員会
東京小児科医会
主な執筆・専門分野
小児科一般/予防接種/乳幼児健診/アレルギー/子どもの発達

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