妊娠中のワクチンはアブリスボだけ? お母さんと赤ちゃんを守る予防接種
妊娠中のワクチンはアブリスボだけ? お母さんと赤ちゃんを守る予防接種

妊娠中に受けるワクチンについて、「アブリスボの説明は受けたけれど、ほかにも必要なの?」と思っている方はいませんか。
妊娠中に接種を検討したいワクチンは、RSウイルスワクチンのアブリスボだけではありません。 百日咳、インフルエンザ、新型コロナなども、お母さんや生まれてくる赤ちゃんを守るために知っておきたい予防接種です。
当院では、妊娠週数や接種歴、ご本人の希望を確認しながら、必要なワクチンを積極的にご案内しています。
定期接種だけが、大切なワクチンではありません
2026年4月から、妊婦さんへのRSウイルスワクチン(アブリスボ)が定期接種になりました。対象は、妊娠28週0日から36週6日までです。お母さんが作った抗体が胎盤を通って赤ちゃんに届き、生後早期のRSウイルスによる肺炎や細気管支炎など、特に重症化を防ぐことが目的です。
現在、妊婦さんを対象とする定期接種はアブリスボですが、任意接種にも大切なワクチンがあります。
「任意接種だから必要性が低い」という意味ではありません。 定期・任意は制度上の区分です。実際に接種するかどうかは、予防できる病気や期待できる効果、副反応などを踏まえて考えます。
妊娠中のワクチンには、二つの大切な役割があります
一つは、妊婦さん自身を感染症や重症化から守ること。もう一つは、お母さんが作った抗体を赤ちゃんに届け、生まれて間もない時期を守ることです。
赤ちゃんは、生まれた直後からすべてのワクチンを接種できるわけではありません。妊娠中の接種は、赤ちゃん自身の予防接種が進むまでの時期を支える方法の一つです。得られる効果は、病気やワクチンによって異なります。
妊娠中に知っておきたいワクチン
お母さんと赤ちゃんを守る、妊娠中の予防接種スケジュール
ワクチン | 接種時期の目安 | 接種区分 | 主な目的 |
|---|---|---|---|
RSウイルス(アブリスボ) | 妊娠28週0日〜36週6日 | 定期接種 | 胎盤を通して赤ちゃんに抗体を届け、生後早期のRSウイルスによる肺炎・細気管支炎など、特に重症化を予防します。 |
三種混合(DPT/百日咳・ジフテリア・破傷風) | 妊娠27〜36週を目安に相談 | 任意接種 | 特に百日咳が重症化しやすい、生まれて間もない赤ちゃんを守るために検討します。 |
インフルエンザ(注射) | 妊娠初期から接種可能。流行時期に合わせて接種 | 任意接種 | 妊婦さん自身の重症化を予防し、生まれてくる赤ちゃんの保護にもつながります。 |
新型コロナ | 妊娠初期から接種可能。接種歴や流行状況に合わせて相談 | 任意接種 | 妊婦さん自身の重症化予防などを目的に接種を検討します。 |
「任意接種」は、必要性が低いという意味ではありません。 妊娠週数や接種歴、感染リスク、ご本人の希望に合わせて検討します。
三種混合の妊娠27〜36週という目安は、主に海外のTdapの知見に基づきます。国内のDPTとは製剤が異なるため、医師が接種の利益とリスクを確認して判断します。
インフルエンザ・新型コロナワクチンは、妊娠初期だから一律に接種を延期する必要はありません。
MR(麻しん・風しん)や水痘などの生ワクチンは、妊娠中には接種できません。
接種時期・制度の出典:
百日咳から、生まれたばかりの赤ちゃんを守るために
百日咳は、特に生後早期の赤ちゃんがかかると重症化し、命に関わることがあります。
2025年は日本で少なからずの赤ちゃんが百日咳で犠牲になりました。当院でも他院の判断でワクチン未接種だった赤ちゃんが百日咳で来院したことがあります。高次施設に搬送するも無呼吸発作がひどく、通常の救急車ではなく高次施設からのドクターカーで搬送してもらい、無事救命できました。
注意:こちらは典型的な百日咳の発作ですが、ワクチン接種済みや成人の場合、このような典型例ではないこともあります。
海外では、妊婦さんへの成人用三種混合ワクチン「Tdap」の接種が広く行われています。米国では妊娠27〜36週の接種が推奨され、赤ちゃんの百日咳を予防する効果が確認されています。
日本で使用する三種混合ワクチン「DPT(DTaP、トリビック)」は、海外のTdapとは成分量などが異なる製剤です。妊婦さんには、接種の利益がリスクを上回ると医師が判断した場合に接種します。現在の添付文書には、妊婦への接種後に妊娠合併症や胎児の異常の頻度が上昇せず、へその緒の血液中の百日咳に対する抗体が増えたという報告も記載されています。
当院では、接種方法にも配慮しています
海外で使われるTdapは筋肉内に接種します。一方、日本のトリビックは、添付文書で皮下注射と定められています。
三種混合ワクチンでは、接種した場所の赤み、腫れ、痛み、しこりなどが起こることがあります。ワクチンに含まれる免疫の働きを助ける成分は、皮下で局所反応を起こしやすいことが知られています。
当院では、妊婦さんの負担をできるだけ少なくすることを目指し、DPTは皮下組織の深めの位置に接種するよう配慮しています。 ただし、この工夫によって腫れや痛みを確実に減らせると証明されているわけではなく、局所反応が起こる場合はあります。接種後の経過や、気になる症状が出た場合の対応もご案内します。
当院では妊婦さんにワクチンの情報提供を行っています。
当院を受診された妊婦さんのお話では、産院でアブリスボの案内を受けた一方、ほかのワクチンについては説明を受けていない、という声を少なからず伺います(これは当院で伺った範囲の経験であり、産院全体の対応を調べた結果ではありません)。
ワクチンの存在を知らなければ、妊婦さんから質問することもできません。
接種を希望するかどうかを考えるためには、まず情報が必要です。 私たち医療者には、定期接種に限らず、検討したいワクチンについて、効果・副反応・費用・接種時期を積極的に伝える役割があります。
自施設で接種していないワクチンでも、情報を提供し、対応できる医療機関につなぐことはできます。産科と小児科が連携し、出産前からお母さんと赤ちゃんを支えることが大切だと考えています。
当院では、妊婦さんの予防接種をご相談いただけます
かるがもクリニックでは、妊婦さんの予防接種について情報を提供し、必要性とご希望を確認したうえで、接種に対応しています。必要に応じて、かかりつけの産科とも連携します。
「アブリスボ以外についても知りたい」「自分に必要なワクチンを確認したい」という段階でも構いません。母子健康手帳や、これまでの接種記録があればお持ちください。
赤ちゃんを守る準備は、出産前から始められます。 お母さん自身の健康と、生まれてくる赤ちゃんのために、一緒に接種を考えていきましょう。
免責事項
本記事は、妊娠中の予防接種について一般的な情報を提供するもので、個別の診察に代わるものではありません。接種の適否や時期は、妊娠週数、体調、接種歴、使用する製剤などによって異なります。かかりつけの産科医や接種を担当する医師とご相談ください。予防接種の制度や助成内容は変更される場合があるため、お住まいの自治体などで最新情報をご確認ください。
この記事を書いた医師
宮原 篤|かるがもクリニック院長・小児科医
東京都世田谷区・千歳船橋駅前で、2011年の開院以来、子どもたちの診療と予防接種に取り組んでいます。妊婦さんやご家族への予防接種にも対応し、出産前から赤ちゃんを守るための情報提供を大切にしています。
日本小児科医会理事、NPO法人VPDを知って、子どもを守ろうの会理事。日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会委員。
著書に『やさしくわかる 小児の予防接種』。科学的な根拠を、日々の診療で役立つわかりやすい言葉でお伝えしています。

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