赤ちゃんだけではありません|妊娠・授乳中のお母さんにも大切なビタミンD
赤ちゃんだけではありません|妊娠・授乳中のお母さんにも大切なビタミンD

ビタミンDというと、「赤ちゃんのくる病を防ぐための栄養素」というイメージが強いかもしれません。
しかし、ビタミンDは赤ちゃんだけの問題ではありません。妊娠中はお腹の赤ちゃんの骨をつくり、授乳中は母乳を通してカルシウムを届けるため、お母さんの骨も大きく働いています。
2026年8月に札幌で開催された第35回日本外来小児科学会年次集会で、時田章史先生の教育講演「ビタミンDの旅路~40年の研究が語る母子の健康と未来~」を聴講しました。
今回はその内容をもとに、母乳で育つ赤ちゃんのビタミンD補充と、妊娠・授乳中のお母さんに起こることがある「妊娠授乳関連骨粗鬆症(PLO)」についてお話しします。
この記事の結論
完全母乳栄養の赤ちゃんは、ビタミンDが不足しやすい傾向があります
乳児用ビタミンDサプリメントを使う場合、栄養方法や生活環境に応じて量を考える必要があります
講演では、完全母乳栄養児にBabyD200を2滴、400IU/日とする考え方も示されました
授乳中のお母さんも、カルシウムとビタミンDを不足させないことが大切です
授乳中の骨量低下は通常一時的ですが、強い腰痛や背中の痛みではPLOによる骨折を見逃してはいけません
ビタミンDは、カルシウムを骨に届ける栄養素です
ビタミンDには、腸からのカルシウム吸収を助け、骨を適切に石灰化する働きがあります。
ビタミンDが不足すると、成長期の子どもでは骨が十分に硬くならない「くる病」の原因になります。成人では、骨が軟らかくなる骨軟化症などにつながることがあります。
ビタミンDは、魚や卵黄、キクラゲ、干しシイタケなどの食事から摂取するほか、紫外線を受けた皮膚でも作られます。
ところが、現代では屋内で過ごす時間が増え、紫外線を徹底して避ける生活も一般的になりました。魚を食べる機会が少ない家庭もあります。その結果、赤ちゃんだけでなく、思春期の女性や妊婦さんにもビタミンD不足が多いことが指摘されています。
完全母乳の赤ちゃんは、ビタミンDが不足しやすい
母乳には、赤ちゃんとお母さんの双方に多くのメリットがあります。ビタミンDを補うために、母乳育児をやめる必要はありません。
ただし、母乳に含まれるビタミンDは多くありません。そのため、完全母乳栄養の赤ちゃんでは、母乳だけで十分な量を摂ることが難しい場合があります。
特に、次のような条件が重なる場合は注意が必要です。
冬生まれ、または冬を屋内中心で過ごしている
外気浴や外遊びの機会が少ない
紫外線をほぼ完全に避けている
補完食(離乳食)の開始が遅れている、または進みにくい
魚や卵黄などを食べる機会が少ない
低出生体重児や、脂溶性ビタミンを吸収しにくい病気がある
2025年に日本小児医療保健協議会が公表した提言でも、母乳栄養を妨げることなく、生活・食事環境の改善が難しい場合には、乳児用の天然型ビタミンDサプリメントを検討するとしています。
完全母乳ならBabyD200を2滴でもよい?
BabyD200には、1滴あたり5μg、つまり200IUのビタミンDが含まれています。製品に表示されている摂取目安は、1日1滴です。
一方、日本人の食事摂取基準では乳児の目安量が200IU/日とされているのに対し、国際的なガイドラインでは、乳児期に400IU/日のビタミンDを補充することが推奨されています。
今回の講演では、完全母乳栄養の赤ちゃんについては、BabyD200を1日2滴、合計400IUとしてもよいのではないか、という意見がありました。
ミルクにはビタミンDが含まれているため、完全ミルク栄養や混合栄養では、飲んでいるミルクの量も考えなければなりません。ほかのサプリメントとの重複にも注意が必要です。
当院では、母乳とミルクの割合、季節、外出の状況、補完食の進み方などを確認したうえで、赤ちゃんごとに相談しています。自己判断で量を増やさず、心配な場合は乳児健診などでご相談ください。
お母さんが飲めば、赤ちゃんの補充は不要?
妊娠・授乳中のお母さん自身が、カルシウムとビタミンDを不足させないことはとても大切です。妊娠中のお母さんのビタミンD充足度は、生まれてくる赤ちゃんの状態とも関係します。
ただし、お母さんが通常量のビタミンDを摂れば、母乳を通して赤ちゃんにも必ず十分な量が届く、というわけではありません。
したがって、次の2つは分けて考えます。
お母さんは、お母さん自身の骨と健康のためにカルシウムとビタミンDを摂る
赤ちゃんは、栄養方法や生活環境に応じて直接のビタミンD補充を検討する
「お母さんが飲んでいるから、赤ちゃんには必要ない」と自己判断しないことが大切です。
妊娠・授乳中、お母さんの骨では何が起きているのでしょうか
妊娠後期には、お腹の赤ちゃんの骨をつくるため、多くのカルシウムが必要になります。妊娠中のお母さんの体は、腸から吸収するカルシウムを増やすことで対応します。
授乳中は仕組みが少し変わります。母乳へカルシウムを供給するため、お母さんの骨から一時的にカルシウムを取り出す働きが強くなります。そのため、授乳中には腰椎などの骨密度が低下することがあります。
ただし、これは多くのお母さんに起こる生理的な変化です。授乳量が減って月経が再開すると、通常は骨を作る方向へ切り替わり、骨密度は回復していきます。
つまり、授乳した人がみな骨粗鬆症になるわけではありません。
まれですが、妊娠授乳関連骨粗鬆症(PLO)があります
妊娠後期から出産後の授乳期に、わずかな力で骨折してしまう病気を、妊娠授乳関連骨粗鬆症(Pregnancy- and Lactation-Associated Osteoporosis:PLO)と呼びます。
PLOでは背骨の圧迫骨折が多く、複数の背骨が骨折することもあります。股関節、仙骨、肋骨などに骨折が起こる場合もあります。
発症はまれですが、産後は腰痛が珍しくないため、「赤ちゃんを抱いているから痛いのだろう」「産後だから仕方がない」と見過ごされ、診断が遅れることがあります。
PLOの原因は、まだ完全には分かっていません。妊娠や授乳だけで起こるというより、もともとの骨量や遺伝的な体質、やせ、思春期の運動不足、食事制限、カルシウム・ビタミンD不足、使用している薬など、複数の条件が重なって発症すると考えられています。
なお、カルシウムやビタミンDをきちんと摂っていれば、PLOを必ず予防できるというわけでもありません。栄養は大切ですが、強い痛みがある場合には、サプリメントだけで様子を見ないでください。
こんな腰痛・背中の痛みは受診してください
産後の腰痛の大部分は、骨折によるものではありません。しかし、次のような場合は「よくある産後の腰痛」と決めつけない方がよいでしょう。
突然、背中や腰に強い痛みが出た
寝返りや起き上がりだけでも激しく痛む
赤ちゃんを抱くことが難しいほど痛い
数週間たっても改善しない、または悪化している
身長が低くなった、背中が曲がったように感じる
軽い動作をしただけなのに強い痛みが出た
股関節が強く痛み、歩きにくい
このような症状があれば、整形外科や骨代謝を専門とする医療機関に相談してください。PLOが疑われる場合には、骨密度検査、画像検査、血液検査などを行い、ほかの原因による骨粗鬆症がないかも確認します。
治療では、カルシウムとビタミンDの確保、痛みへの対応、授乳を続けるかどうかの相談などが行われます。骨粗鬆症治療薬が検討される場合もありますが、将来の妊娠への影響も考慮し、専門医が個別に判断します。
母乳で育てるお母さんに心がけてほしいこと
カルシウムを不足させない
カルシウムは、牛乳、ヨーグルト、チーズ、小魚、豆腐、納豆、小松菜などに含まれます。
日本人の食事摂取基準では、妊婦・授乳婦のカルシウム付加量は「+0」とされています。しかし、これは「妊娠・授乳中はカルシウムを意識しなくてもよい」という意味ではありません。成人女性に必要な量を、普段の食事で満たしていることが前提です。
育児中は自分の食事が後回しになりがちです。パンやおにぎりだけで済ませる日が続かないよう、乳製品、大豆製品、小魚などを少しずつ組み合わせてください。
ビタミンDを含む食品を摂る
ビタミンDは、鮭、サバ、イワシ、しらす、卵黄、キクラゲ、干しシイタケなどに含まれます。野菜だけでは十分に摂りにくい栄養素です。
魚をほとんど食べない、強く日光を避けているなど、不足しやすい生活が続く場合には、サプリメントも選択肢になります。ただし、複数の製品を併用すると摂取量が分かりにくくなるため、成分量を確認してください。
無理のない屋外活動と運動を続ける
ビタミンDを皮膚で作るためにはUV-Bが必要です。UV-Bは窓ガラスをほとんど通らないため、ガラス越しの日光だけでは十分ではありません。
一方で、日焼けするまで紫外線を浴びる必要もありません。地域、季節、時刻によって必要な時間は変わります。詳しくは、当院の「子どもの日焼け止めは強すぎなくて大丈夫?紫外線対策とビタミンD不足」もご覧ください。
産後の体調が戻ってきたら、歩行など、骨に適度な重力がかかる運動を無理のない範囲で再開しましょう。
将来の骨を守る準備は、思春期から始まっています
骨粗鬆症は、高齢者だけの問題ではありません。
人の骨量は成長期に大きく増え、思春期から若い成人期に最大骨量、いわゆるピークボーンマスを迎えます。この時期にどれだけ骨を蓄えられたかが、その後の妊娠・授乳期や高齢期の骨の健康にも影響します。
成長期の過度なダイエット、偏食、運動不足、無月経などは、骨量を十分に増やせない原因になります。小児科で子どものビタミンDについて考えることは、その子の数十年後の骨を守ることにもつながります。
当院では赤ちゃん健診でも栄養について確認します
当院の予防接種・乳幼児健診では、体重や発達だけでなく、母乳とミルクの割合、外気浴、補完食の進み方なども確認します。
完全母乳栄養でビタミンD補充を迷っている場合や、赤ちゃんのO脚などが気になる場合にもご相談ください。O脚の多くは成長に伴う生理的なものですが、左右差が強い、変形が進む、低身長や運動発達の遅れを伴う場合などは、くる病を含めた評価が必要になることがあります。
小児科は赤ちゃんを診る場所ですが、赤ちゃんの健康はお母さんの健康と切り離せません。授乳中のお母さんも食事を後回しにしすぎず、強い腰痛や背中の痛みがある場合には我慢しないでください。
よくある質問
完全母乳なら、全員BabyD200を2滴与えるべきですか?
一律に2滴という意味ではありません。BabyD200の製品表示上の摂取目安は1日1滴です。一方、国際的には乳児への400IU/日が推奨されており、講演では完全母乳栄養児に2滴とする考え方も示されました。季節、外出、補完食、ミルクの併用量などによって変わるため、小児科で相談してください。
ミルクを飲んでいる赤ちゃんにも必要ですか?
育児用ミルクにはビタミンDが含まれています。完全ミルク栄養か混合栄養か、1日にどの程度飲んでいるかによって、追加補充の必要性は変わります。
お母さんがビタミンDを摂れば、赤ちゃんへの補充は不要ですか?
通常量のお母さんの補充だけで、母乳中のビタミンDが赤ちゃんに十分な量になるとは限りません。お母さん自身の摂取と、赤ちゃんへの直接補充は分けて考えます。
授乳すると骨粗鬆症になりますか?
授乳中には一時的に骨密度が低下しますが、多くの場合は離乳後に回復します。授乳した人が全員、骨粗鬆症になるわけではありません。PLOはまれですが、強い腰背部痛がある場合には注意が必要です。
PLOが心配なら授乳をやめるべきですか?
症状がない人が、PLOを恐れて授乳をやめる必要はありません。PLOと診断された場合には、骨折の状態や授乳状況を踏まえ、授乳を続けるかどうかを専門医と相談します。
まとめ
ビタミンDは、赤ちゃんの骨だけでなく、妊娠・授乳中のお母さんの骨にも欠かせません。
母乳育児には多くのメリットがあります。しかし、母乳だけでは赤ちゃんのビタミンDが不足することがあるため、不足する分は生活、食事、必要に応じたサプリメントで補えばよいのです。
同時に、お母さん自身もカルシウムやビタミンDを不足させないようにしてください。そして、産後に強い腰痛や背中の痛みが続く場合には、「育児中だから仕方がない」と我慢せず、医療機関を受診しましょう。
母子のどちらか一方ではなく、赤ちゃんとお母さんの両方の骨を守ることが大切です。
参考資料
この記事を書いた医師
宮原 篤
かるがもクリニック院長/小児科医
2011年から世田谷区・千歳船橋で小児科診療を行っています。一般小児科のほか、予防接種、乳幼児健診、アレルギー、子どもの発達など、日常のさまざまな相談に対応しています。
学会・医会では、予防接種や公衆衛生に関する活動に携わり、保護者向け・医療者向けの書籍や記事も執筆しています。診療で実際によく受ける質問をもとに、保護者の方が判断しやすい、正確で実用的な医療情報を発信しています。
主な所属・役職
VPDの会 理事
東京都医師会予防接種・感染症委員会 副委員長
日本小児科医会 公衆衛生委員会
東京小児科医会 公衆衛生部
日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会
主な執筆・専門分野
小児科一般/予防接種/乳幼児健診/アレルギー/子どもの発達

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