インフルエンザは冬だけではありません―流行予報を小児科医が解説
インフルエンザは冬だけではありません―流行予報を小児科医が解説

「まだ暑いのに、インフルエンザ?」と思う方もいらっしゃるでしょう。インフルエンザは冬以外にも流行します。以前かかったことがあっても、再び感染することがあります。 季節のイメージだけで判断せず、地域の流行に合わせて備えることが大切です。
私が理事を務める日本感染症予報協会は、2026年9月13日、「インフルエンザ流行予報 第3報」を発表しました。医療関係者向けの資料ですので、保護者の皆さんに知っていただきたい点を、できるだけわかりやすくお伝えします。
【コラムNo.8】2026-2027インフルエンザ流行予報 第3報
https://kansenshoyoho.jp/%e3%80%90%e3%82%b3%e3%83%a9%e3%83%a0no-%ef%bc%98%e3%80%912026-2027%e3%82%a4%e3%83%b3%e3%83%95%e3%83%ab%e3%82%a8%e3%83%b3%e3%82%b6%e6%b5%81%e8%a1%8c%e4%ba%88%e5%a0%b1%e3%80%80%e7%ac%ac%ef%bc%93/
※流行状況と見通しは、同予報の基準日である2026年9月12日時点の情報に基づきます。
世界では「冬だけの病気」ではありません
日本などの温帯では、インフルエンザは冬に大きく流行しやすい病気です。しかし、熱帯・亜熱帯には、年間を通じて発生したり、雨の多い時期に流行したりする地域があります。南半球では、日本の夏にあたる時期が冬です。
つまり、日本が暑い時期でも、世界のどこかでは流行が起こっています。「寒くないからインフルエンザではない」とは言い切れません。 夏の流行は、世界的に見れば以前からあることです。WHO:季節性インフルエンザ
今回の予報では、香港・台湾などでA(H1N1)pdm09という種類の流行が目立ち、沖縄県では9月11日に注意報が発令されたと報告されています。ただし、予報の時点では、沖縄の流行が同じ種類を中心とするかは確認されていません。
人の移動や新学期が、流行の広がり方を変えます
旅行・帰省・出張などで人が移動すると、感染した人を介してウイルスも地域を越えて移動します。海外との往来だけでなく、国内の移動も関わります。
さらに、新学期になって学校で接する人数が増えると、子ども同士、家庭、地域へと感染が広がるきっかけになります。今回の予報では、こうした人の移動や学校再開に、ウイルスの変化、気象条件などが重なり、早い時期の流行につながった可能性を指摘しています。

ただし、人の移動が多かったという情報だけで、「どこから、誰を介して感染が広がったか」まではわかりません。 また、温暖化だけで今回の流行を説明することもできません。
ウイルスの「株の名前」と「系統名」は何が違うのでしょうか?
資料には「A/Switzerland/6849/2025」「D.3.1」といった難しい表記が出てきます。これは、古い呼び方と新しい呼び方という関係ではありません。
株の名前は、個々のウイルス株を識別する名前。系統名は、遺伝子の特徴が近いウイルスをまとめたグループ名です。 たとえるなら、「個人の名前」と「家系図のどの枝に属するか」の違いです。CDC:インフルエンザウイルスの分類と命名

図:A(H1N1)pdm09の中の一部を示した模式図です。株名と系統名は併用されます。枠の大きさは流行の規模を表しません。
今回の資料では、A/Switzerland/6849/2025という株はD.3.1というグループに属します。D.3.1.1は、その中のさらに細かなグループです。「D」がついていますが、D型インフルエンザという意味ではありません。
なお、A(H1N1)pdm09は、2009年に世界的に流行したウイルスの子孫で、現在は季節性インフルエンザとして流行しているものです。
地名がついていても、感染源を示すわけではありません
「A/Switzerland/6849/2025」は、次の情報を組み合わせた名前です。
表記 | 意味 |
|---|---|
A | A型 |
Switzerland | その株が採取・分離された地域を示す情報(スイス) |
6849 | 株を識別する番号 |
2025 | 採取された年 |
スイスという名前がついていても、「スイスで生まれたウイルス」「今回の流行はスイスが感染源」という意味ではありません。 名前の地名だけでは、ウイルスの発生源や感染経路は判断できません。
前にかかった子も、またかかるのでしょうか?
以前インフルエンザにかかったことがあっても、再感染することはあります。
同じH1N1という種類でも、ウイルスは少しずつ変化します。体の免疫が見分ける「目印」が変わったり、時間とともに免疫が弱まったりするためです。過去の感染による免疫がすべてなくなるわけではありませんが、「前にA型にかかったから、今年は大丈夫」とは言えません。
ワクチンに使う株も、こうした変化を調べながら更新されます。今回の予報では、今シーズンのH1N1ワクチン成分について、流行株との抗原性の対応が良いと報告されています。ただし、これは感染を完全に防げるという意味ではなく、実際の予防効果は年齢や免疫の状態などでも変わります。
ご家庭で、今からできること
気温よりも、地域の流行情報を確認しましょう。 学校・園のお知らせや自治体の情報を参考にしてください。
ワクチンの予約・接種開始の案内を確認しましょう。 接種してすぐに免疫がつくわけではありません。「寒くなってから」と先延ばしにせず、年齢や接種回数に応じた予定を相談してください。
手洗い・換気・咳エチケットを心がけ、体調が悪いときは無理に登園・登校しないようにしましょう。 これらはワクチン接種後も大切です。
発熱だけでなく、息苦しさ、呼びかけへの反応がおかしい、けいれんなどがある場合は、速やかな受診が必要です。呼吸が苦しい、意識がはっきりしない、けいれんが続くときは救急要請をためらわないでください。
難しいウイルスの名前を覚える必要はありません。「冬だけの病気」と思い込まず、流行に合わせて備えること。 それが今回、保護者の皆さんにお伝えしたいことです。
接種方法については、当院のフルミストの解説もご覧ください。
執筆:宮原 篤(かるがもクリニック院長・日本感染症予報協会理事)
2011年から世田谷区・千歳船橋で小児科診療を行っています。一般小児科のほか、予防接種、乳幼児健診、アレルギー、子どもの発達など、日常のさまざまな相談に対応しています。
学会・医会では、予防接種や公衆衛生に関する活動に携わり、保護者向け・医療者向けの書籍や記事も執筆しています。診療で実際によく受ける質問をもとに、保護者の方が判断しやすい、正確で実用的な医療情報を発信しています。
主な所属・役職
VPDの会 理事
東京都医師会予防接種・感染症委員会 副委員長
日本小児科医会 公衆衛生委員会
東京小児科医会 公衆衛生部
日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会
主な執筆・専門分野
小児科一般/予防接種/乳幼児健診/アレルギー/子どもの発達

主な参考資料:日本感染症予報協会「インフルエンザ流行予報 第3報(医療関係者向け)」2026年9月13日発行、WHO「Influenza (seasonal)」、CDC「Types of Influenza Viruses」。図は同予報の記載をもとに作成した模式図です。
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