新型コロナ対策の振り返り(検査)

新型コロナウイルスが世に出たとき、日本では検査の論争がありました。曰く、海外では検査をいっぱいしているのに、日本では意図的に検査を少なくして患者数を少なくしている、という意見でした。

そんな中、「誰でも、いつでも、何度でも」の世田谷モデルがマスコミなどで(日本の対策と比較する意味合いで)称賛されてきました。

少し振り返りをしてみようかと思います。

注意:この振り返りはあくまで振り返りであり、つるし上げを意図するものではありません。

振り返りのまとめとしてはシンプルに

  • 事前確率の高い人を優先する
  • 検査自体を目的化してはいけない

です。

テドロスは全員に検査せよと言ったか?

確かにWHO事務総長のテドロスは
“We have a simple message for all countries: test, test, test.”
と言っており、いかにも全員に検査をするように訴えているかのように思えます。
しかし“Test every suspected case.”「すべての疑わしいケースを検査せよ」との条件がついていることにはあまり知られていません。テドロスが言いたいのは、事前確率(検査前確率)が高い人を検査せよ、という意味で、大規模検査を推奨していたのではありません。

当時の検証記事も参考にしてください。
「検査をもっとやれ」という日本へのメッセージではない。WHOの声明を伝える報道で不正確な情報が拡散 公開 2020年3月18日
https://www.buzzfeed.com/jp/yutochiba/who-message-mislead?utm_source=dynamic&utm_campaign=bfsharecopy

事前確率については、以前少し書きましたので、御覧ください。
https://karugamo-cl.jp/index.php?QBlog-20200228-1

世田谷モデル

世田谷モデルの振り返りは、こちらで十分でしょう。
つるし上げる意図はありませんが、世田谷区は4億円の使いみちについて検証してほしいものです。

(3)国内における大規模PCR検査事業の失敗
 国内の大規模調査は、世田谷モデルのキャッチフレーズ「誰でも、いつでも、何度でも」が示す通り、事前確率を上げる手続きなしでPCR検査を行うことである。これは前記分科会の意図に沿わない事業であったが、メディアでは好意的に報道された。しかし、当初対象とされた90万区民は、介護施設職員ら約2万3,000人に大幅に縮小され、しかも、陽性と判明したのはわずか25人であった。これは、事前の計算から十分に予測できたことであり、予算が4億円超と聞けば、区長の事後のコメント「施設関係者の感染を減らし、医療の逼迫を抑える効果はあった」を肯定的に受け取るのは不可能だ。愛知県、広島県などの大規模検査事業も、世田谷モデルと同じ道筋をたどった。
 カツオ漁の例で、魚群探知機なしでいきなり一本釣りをした結果と考えれば納得しやすい。広島県の経費13億円についても「積極的な検査で感染拡大を抑える方が、結果的に経済的なコストが安くなる」とコメントを出した経済学者をはじめ、専門家といわれる人たちの「積極的な検査で感染拡大を抑える」という考え方について、現時点での責任ある検証または釈明が必要だ。

日本公衆衛生学会、新型コロナウイルス感染症対応記録
鈴木 貞夫、日本の検査の実施に関する教訓
http://www.jpha.or.jp/sub/topics/20230427_1.pdf

こちらの記事でもいいでしょう。
公開 2020年8月12日
「経済を回すために無症状への検査拡大」専門家はどう見るか?
https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/covid-19-okabe-8-1

濃厚接触者への検査

一時期世田谷でも濃厚接触者に積極的にPCR検査をしようという意見もありました。
しかし、濃厚接触者をして陰性でも待機期間が短縮するわけでもありませんし、また検査時点で陰性でも感染者と同居してればどこかで感染するかもしれません。
2022年2月、当院では、このようなことをラインで通知していました。
画像の説明

治療薬につながらない検査の意義

コロナ初期には有効な治療薬がなく、あくまで対症療法のみでしたが、ラゲブリオやパキロビッドなど、ある程度コロナに有効な治療薬が出てきました。
これらの薬は特例承認を受けた薬であり、当初は登録した医療機関しか処方することができませんでした。しかしながら発熱外来を行っている多くの医療機関はこれらの登録をしていませんでした。つまり、発熱外来を受けても適切な治療が受けられない可能性がありました。

現在は一般流通しているのですが、適応があるのに処方されなかった、とタミフルとは逆の現象が起きているようです。

もともと検査は隔離するための検査でしたが、治療することも考えておくべきでしょう。

5類になると検査の患者負担が増えます

5類になるということは国からの公助が減ることであり、その一環で検査代金の負担が増えることになります(現状は高校生までは公費負担あり)。「保険診療で窓口負担3割の場合、PCR検査は2550円、抗原検査は1332円」ということです(注意:その他初診料などかかりますし、陽性の場合は更に負担が増えます)。
https://news.yahoo.co.jp/articles/beb18238bf60220b1cdb2a0ec929c2bf1088d5dc
逆に言うと、これまではPCR検査代8,500円、抗原検査4,440円を国が負担していたということになります。

医学的に検査する理由があれば検査を

結局の所、インフルエンザなどの検査と同じく、何かしらのスクリーニング(発熱など)をして、事前確率(検査前確率)が高い人を検査する、という当たり前のところに落ち着きそうです。
検査する理由も、隔離だけではなく、適切な治療・療養に結びつける必要があるのは、言うまでもないでしょう。

検査すること自体を目的にしてはいけません。