今年から百日咳の届け出が義務になります

 あけましておめでとうございます。昨日は医師会の救急外来で仕事をしていましたが、当院からの仕事は明日からになります。よろしくお願いいたします。

 百日咳はみなさんご存知でしょうか?

 以前当ブログでまとめたことがありますので、ご覧ください。

百日咳ワクチン(DPTワクチン)の歴史:その1

百日咳ワクチン(DPTワクチン)の歴史:その2

 現在日本で使われている百日咳混合ワクチンは無細胞型 (IPV-DTaP)と呼ばれるものです。全菌型ワクチン(DTwP)と違い、副反応は少ないものの有効期間は短いものです。大体数年ほどで免疫が切れます。

 日本のIPV-DTaPワクチンのスケジュールでは1歳までに4回目の接種が終了してしまいます。そのため、4-5歳ごろからの百日咳が報告されています(当院でもあり)。一部では大学やNICUでの集団感染も報告されているのです。

 百日咳の問題はワクチン未接種の赤ちゃんが感染すると重症化しやすくなり、時に命にかかわるということです。その感染源は、身内の人(両親・きょうだい・祖父母)やNICU勤務者など医療感染者なのです。年長者・大人の百日咳は概して軽症で(例外あり)、軽い風邪だと思ったら百日咳で赤ちゃんに感染させてしまったということもあります。

 今まで百日咳がどのくらい日本ではやっているのかという全国レベルでの定量的な調査結果はありませんでした。百日咳の診断は難しいことと、成人を含めたサーベイランス(調査)が無かったからです。

 最近になり状況は変わりました。

 一つは新しい検査方法が保険適応になったことです。LAMP法といって、感度・特異度ともに比較的優れた検査です。
(参考:「インフル陽性です!」は正しいか?

 もう一つは、今年から感染症法に基づき全例報告の対象になったことです。

 検査をしたほうがいいと思われる症状を、厚労省のサイトから引用します。

2)  臨床的特徴
 潜伏期は通常5~10日(最大3週間程度)であり、かぜ様症状で始まるが、次第に咳が著しくなり、百日咳特有の咳が出始める。乳児(特に新生児や乳児早期)ではまれに咳が先行しない場合がある。
 典型的な臨床像は、顔を真っ赤にしてコンコンと激しく発作性に咳込み(スタッカート)、最後にヒューと音を立てて息を吸う発作(ウープ)となる。嘔吐や無呼吸発作(チアノーゼの有無は問わない)を伴うことがある。血液所見としては白血球数増多が認められることがある。乳児(特に新生児や乳児早期)では重症になり、肺炎、脳症を合併し、まれに致死的となることがある。
 ワクチン既接種の小児や成人では典型的な症状がみられず、持続する咳が所見としてみられることも多い。

 当院で去年診断した5歳のお子さんも、スタッカートとウープはわずかながらにありました。

 気になる咳がある場合は、早めに教えてください(特に赤ちゃんがいる・生まれる場合)。

おまけ

 現行の無細胞型百日咳ワクチンは有効期間が短く、また日本のワクチンスケジュールでは早期に接種が完了してしまうため、長期の免疫が望めません。アメリカでは4-6歳にももう一度DTaPを接種します(ついでに言うと、不活化ポリオワクチンも4回目は4歳以降)。アメリカでは成人用の百日咳ワクチン Tdapというのがあり、青少年・妊婦・赤ちゃんと会う高齢者にも積極的に接種しています。

 妊婦の百日咳ワクチンについて、もう少し説明します。

 百日咳の抗体は通常の感染症と違い、お母さんから赤ちゃんに移行しにくいです。胎盤を通して得られた移行抗体は多くの感染症を赤ちゃんから守ってくれますが、百日咳では期待しにくいです。移行抗体を期待するためには、妊娠中に百日咳のワクチンを接種するか、妊婦に無理やり百日咳に感染させるしかありません。アメリカなどでは、妊娠後期(27-36週)に妊娠の度に接種するようにしています。

 百日咳の届けが義務付けられるようになり、ワクチンを日本でどのように接種していくべきかの議論が進めばと思います。